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Thursday, September 03, 2015

NYTデイヴィッド・ヴァイン論説和訳: 米国内基地だけでなく在外基地を閉鎖せよ Don’t Just Close Bases at Home, Close Them Overseas - Japanese Translation of David Vine's NYT Op-Ed

 米国の国家予算の中で突出した軍事支出が国内から批判にさらされ、議員の支持基盤を失う政治的困難と天秤にかけながら基地の閉鎖がおこなわれてきた。しかし在外基地は周辺地域に多くの問題を引き起こすばかりか米国の安全保障に悪影響を及ぼす。在外基地の中には建設当時と事情が変わって存在意義が薄れたものもある。しかも在外基地は米国議員の票田とは無関係なのに、これを閉鎖しようとする動きは鈍い。このことを批判したデイヴィッド・ヴァイン(アメリカン大学人類学准教授)による文章を翻訳でご紹介する。ニューヨーク・タイムズのオピニオン欄に、このような在外基地問題を批判的に扱う文章が掲載されるのは画期的なことである。
(前文、翻訳:酒井泰幸 翻訳協力 乗松聡子 注:和訳は投稿後微修正することがあります。)

原文は、
Don't Just Close Bases at Home, Close Them Overseas 


米国内基地だけでなく在外基地を閉鎖せよ


デイヴィッド・ヴァイン
2015年7月27日 ワシントン発
David Vine

 9万人近くの雇用を失いたくなければ基地を閉鎖せよと、今月初めにペンタゴンが迫った後、議会は国内の軍事基地を再びいくつか閉鎖することを、間もなく承認しそうな兆候がある。軍は何年もの間、活用されていない国内の軍事施設を閉鎖するために議会で義務づけられた、軍事基地再編閉鎖(Base Realignment and Closure:BRAC)の手続きを繰り返して、経費を節減しようとしてきた。

 米国内にくまなく配置された基地の20パーセント以上は過剰だとペンタゴン自身が推計しているので、この取り組みにより何十億ドルも浮かすことができるかもしれない。しかし議会がこれに抵抗してきたのは、地域の基地が雇用と票をもたらすからである。

 しかしながらBRACは、700以上もある在外米軍基地には適用されない。ドイツに174、日本に113、韓国に83、その他アルバ[訳註1]からケニアやタイまで70カ国に、何百もの米軍基地が存在している。軍と議会は税金を浪費し国家安全保障を掘り崩す在外施設の閉鎖へと進むべきである。

 毎年アメリカの納税者は、海外に駐留する軍人に、本国の軍人に比べ1人当たり平均1万ドルから4万ドルも余計に払っている。私の6年にわたる海外基地の研究の中で、非常に控えめに計算した結果、在外施設と軍隊の維持には2014年に少なくとも850億ドルを要しており、国防総省自体を除くあらゆる政府機関の裁量予算を上回っている。アフガニスタンとイラクへの駐留を加えると、総額は1560億ドルに達する。

 ブッシュ・オバマの両政権は、特にヨーロッパでは基地閉鎖をいくらか進展させた。それでも、全世界で基地の大きさには余剰があることを、軍は認めた。

 残念ながら、軍の内外では多くの人々が、巨大で豪勢な在外基地群の維持に躍起になっている。たとえばヨーロッパでは、ペンタゴンは既存基地の閉鎖と並行して新基地の建設に何十億ドルも費やしてきた。オバマ大統領の「太平洋基軸」戦略のために、すでに軍が何百もの基地と何万人もの軍隊を抱えている地域に、何十億ドルも追加支出することになった。ペルシャ湾に新たな恒久的基地インフラを建設するためにも、同様に数十億ドルが費やされた。

 新基地の建設を止め、ヨーロッパで冷戦基地の閉鎖を進めれば、経費を節減できることは明らかだし、太平洋とペルシャ湾でずさんな構想の下の何十億ドルもの増強計画を廃止することもまた重要な手段である。

 多くの人々にとって、特に中国の力が増大しつつあり、ロシアとの緊張が高まりつつある中での在外基地の閉鎖は、孤立主義への方向転換を合図し、国家安全保障を弱めることになるとの心配があるのは理解できる。時代遅れとなった米国の冷戦時「前方戦略」[訳註2]を支持している人々は、在外基地は敵国を牽制し平和を維持するから、国家安全保障に必要だと感じている。

 しかしながら、ブッシュ政権時代の統合参謀本部の研究と、ランド研究所の研究によると、軍隊を空と海から運ぶ技術の進歩によって、軍隊を前方に駐留させることの利点はほぼ帳消しになってしまったことを示している。概して軍は、在外基地から展開するのと同じくらい素早く、国内の基地から軍隊を展開することができる。在外基地が長期的抑止力の一つの形として有効であることを証明した実証的な研究は皆無に近い。

 いっぽう、米軍の海外駐留はアメリカ人への反感を引き起こしてきた。1980年代ドイツでの爆撃や、2000年イエメンでの海軍駆逐艦コールへの攻撃のような場合では、軍隊は手近な標的だった。サウジアラビアに駐留するアメリカの軍隊の存在は、オサマ・ビン・ラディンが公言した9.11テロ攻撃の動機の一部だった。中東に駐留する米軍の基地と軍隊の存在が、アルカイダの人員募集と相関関係にあるという研究結果もある。外交政策分析者のブラッドリー・F・ボウマンは、米軍基地と軍隊の存在が「反アメリカ主義と先鋭化の主要な触媒」となってきたと言っている。

 在外基地は、軍事的緊張を高め、紛争の外交的解決に水を差す傾向もある。中国やロシア、イランの観点からは、国境近くの米軍基地は軍事支出の増加を引き起こす脅威である。在外米軍基地は、実際には戦争の可能性を増大させ、アメリカの安全を低下させる。

 また米軍は、バーレーンやカタールのような非民主的国家に基地を置き続けるという問題のある嗜好を示し、「基地が民主主義を広める」という建て前をあざ笑うかの如きだ。世界中で、基地は環境破壊や強制移住、売春、事故、犯罪を引き起こしてきた。軍人の家族もまた、遠隔地への赴任や離別の痛みに苦しんでいる。

 ペンタゴンと議会は、改めて国内基地を閉鎖すると同時に、在外基地も閉鎖すべきである。基地周辺の地域社会には転換助成策が必要となるだろうが、基地閉鎖後の生活についての悲観的な予測は、誇張されたものだ。基地閉鎖が周辺地域社会に与える経済的影響は概して限定的であり、実際には好影響をもたらす場合もあることを、研究は明らかにしている。これは驚くに当たらない。基地は、広大な土地を占有する割に地域の経済成長にほとんど貢献しないという点で、他の形の経済活動に比べて非生産的な土地利用であり、雇用する人数も比較的少数である。

 在外施設の閉鎖は、国内基地の閉鎖に伴う政治的困難に比べれば、容易なはずである。何と言ってもアメリカの政治家にとって、国内基地だったら考慮しなければいけない地域雇用や収入の喪失に直面する有権者が、海外の場合ほとんどいないのだから。

 不要な国内外の基地を閉鎖することは、アメリカの財政上および物理的な安全保障を改善するための、現実的で必然的な方法なのである。


デイヴィッド・ヴァイン(David Vine)は、アメリカン大学の人類学准教授で、新刊書「Base Nation: How U.S. Military Bases Abroad Harm America and the World(基地国家:在外米軍基地はいかにアメリカと世界に害をなすか)」(マクミラン社)の 著者である。


訳注1. アルバ(オランダ語:Aruba)は、西インド諸島の南端部、南米ベネズエラの北西沖に浮かぶ島。高度な自治が認められたオランダ王国の構成国。

訳注2. 前方戦略(forward strategy):北大西洋条約機構 NATOが旧東西ドイツの境界付近で防衛する戦略をいう。1956年西ドイツが NATOに加盟するまでは、NATOの防衛線はライン川であったが、西ドイツの加盟によって前方に進められ、東西ドイツの境界線付近となった。



このブログの過去のヴァイン氏による記事

米軍事基地帝国の今:水草のように歯止めなく世界中に増殖している小規模軍事基地「リリー・パッド」(デイヴィッド・ヴァイン、アメリカン大学)David Vine: The Lily Pad Strategy (from TomDispatch - Japanese Translation)
(2012年7月25日)

米軍海外展開の真のコスト:米国納税者は米軍の海外展開に年間1700億ドルも払っている (デイビッド・バイン「TomDispatch」記事 The True Costs of Empire 和訳)
(2013年4月6日)



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